大阪では、20年ぶりとなる明和電機の個展「明和電機 ナンセンスマシーン展 in 大阪」(グランフロント大阪 ナレッジキャピタル EVENT Lab.)。その開催を記念して、大阪のクリエイターである株式会社人間とのコラボが決定。
しかし、明和電機社長 土佐信道が株式会社人間のオフィスを訪れ、打ち合わせをし始めたのが開催を目前にした6月7日。
「6月25日のライブパフォーマンスに合わせるにしても、あと2週間ぐらいで実現しなければならない…!」
そんな不安を感じつつ両者が睨み合った時、突然目標は定まった。
人間側が提案した作品案を見て土佐社長がそうつぶやいたのだ。
我々のコラボ作品は「メガネを飛ばすマシン」に決定、その名も「ガントバス」。
この「ガントバス」を6月25日のライブパフォーマンスで披露するのが目標となった。
果たして、この会期中にちゃんとつくり上げることが出来るのか?
ぜひ期待してこのプロジェクトを見守ってください!
6月25日に間に合うのか!?
妙に生々しい製作の記録です。
2016
0624
今朝、Twitterを見て驚いた。土佐社長が百均で大量にメガネをかっている。そしてスケッチを始めている。
「本当に手をつけていなかった!?」っと、目が飛び出そうになったところで、ここからはリアルタイムに作業は進んでいくので、Twitterのタイムラインを貼り付けます。皆さんも是非、「#ガントバス」のハッシュタグを付けて土佐社長を応援してください!
2016
0623
ついにWEB公開。なぜここまで遅くなったかというと、本当に間に合うのか不安だったからだ。ここで土佐社長にチャットで聞いてみる。
「作品自体は土曜日にはできてる予定でしょうか!?」「大丈夫です!追い込みます!」と、元気な返事が帰ってきた。たぶんいける、きっといける。告知しても大丈夫。それにしても出たとこ勝負か〜。「スパーク一発!やり逃げ」という明和電機社歌の一節が、ぐるぐる頭を回りだした。なんとかやり逃げよう。
2016
0618
最初の打ち合わせから1週間以上経ち、「プロトタイプ」を持ってきてくださるというので、「ナンセンスマシーン展」終わりの土佐社長と半個室の居酒屋で打ち合わせをすることに。「すみません、まだ出来てないんですよ…」個展では朝の開場から閉場するまで出ずっぱりまで頑張る社長。本当にお疲れなようで、このあと、座ったまま夢の世界へお帰りになりました。
明和電機のロゴをUSBメモリに移す土佐社長
2016
0610
「スイス」にすわる明和電機社長。人間さんとコラボります! https://t.co/CfbZydEOM7
— 明和電機 (@MaywaDenki) 2016年6月10日
明和電機と株式会社人間がコラボして作品を作ることをFacebookやTwitterで発表。何を製作するかまでは明かさなかったが土佐社長にもツイートしていただき、これで後戻りはできなくなったと身が引き締まる思い。
2016
0607
明和電機社長、土佐信道社長が株式会社人間に来訪。早速、人間の山根より、コラボ作品案を数種類提案。
その中から土佐社長が選んだのが「メガネを飛ばすマシン」だった。
「ライブでお客さんに飛ばしましょう」「10mは飛ばしたいですね」「壁に発射するとカッと壁に刺さるくらいがいいですね」「ドローンを撃ち落としてやりましょう」など、ライブのお客さんを血祭りにするんじゃないかというところまでイメージは膨らみ、我々は「ガントバス」を製作することを決定した。
その場で次々とスケッチをあげる土佐社長
メガネを見つめイメージをふくらませる
動物は、他の個体と目を合わせることを攻撃的な威嚇行為とみなす本能を有するという。それは人間も同じであることが、1980年代のビー・バップ・ハイスクール期に明らかになったのは周知の通りだろう。
いわゆる「ヤンキー」と呼ばれる人間たちは本能の赴くままに周囲を睨みつけ、威嚇し、世界を震えあがらせた。彼らが築きあげた「ガン(眼)飛ばす」という文化は、眼が武器になりえることを世界に示した点で高く評価されるべきである。しかしながら、ヤンキー文化が急速に廃れるとともに、「ガン飛ばす」という行為の可能性は深く議論されないままに、闇のなかへと葬りさられてしまった。
そして時は過ぎ、2016年。ウェアラブルデバイスの登場により、身体的な機能が有する可能性は、驚くべき進化を遂げた。もちろん、「眼」も例外ではなく、ウェアラブルグラスといった端末も数多く開発されている。ただ、残念ながら、眼の「ガン」としての潜在能力が検討される気配はまったく感じられないままである。
そこで、我々は立ちあがることにした。かつてのヤンキーたちが遺した「ガン飛ばす」の攻撃性をベースに“攻めのアイコンタクト”という新たなダイレクトコミュニケーションのかたちを生みだすべく、ウェアラブルデバイス「ガントバス」を開発することにしたのである。
しかし、ダイレクトコミュニケーションのかたちを革新するためには懸念点もあった。肝心の開発者のひとり、株式会社人間の代表・山根が小心者すぎて、相手の眼を見て話せないのだ。いつもメガネの奥で眼を逸らし、ダイレクトなコミュニケーションを拒絶してしまうのである。
ただ、これは山根に限った話ではないのではなかろうか。ダイレクトコミュニケーションには、ダイレクトであるからこその反動として、相手とのあいだには「壁」が立ちはだかりやすいものだからである。そして、その壁の重さは常に、コミュニケーション弱者であるほうの人間にのしかかり、眼を逸らしたくなるほどの多大なるプレッシャーを与えようとするのだ。
だからこそ、我々は、コミュニケーション弱者のほうから、その壁をぶち壊してほしいと願う。「暴力はコミュニケーション」というコトバもあるが、「ガントバス」の「ガン」にも「Gun(銃)」という攻撃的かつ武力的な意味が含まれている。ガン(眼)を銃のように強く撃ちはなつことで壁を破壊し、コミュニケーション強者に一発食らわしてやろうではないか。
では、そもそも、コミュニケーション弱者とは誰なのか。
ぜひ、上述の山根の姿を思いだしてほしい。ズバリ、「メガネ」だ。メガネをかけている人間は、ガンを飛ばそうにもメガネに妨害され、迫力がいまいち出てくれない。その結果、「陰気」「ひ弱」「博士」などとイメージ戦略を大々的に展開されては「おい、そこのメガネ」と罵倒され、長きにわたり虐げられてきたのである。だから、メガネをかけた人間にこそ、コミュニケーション弱者の代表として、「ガントバス」の使い手として立ちあがってほしい。そう、我々は考えている。
かつて一度だけ、メガネをかけた人間への弾圧に立ちむかった人物がいた。
大阪が誇る伝説の漫才師「やすしきよし」である。
横山やすしがボケた瞬間、西川きよしがツッコミを入れると、メガネが飛ぶ。すると、やすしは「メガネ、メガネ」と言いながら四つんばいになって探しはじめる。
一見すると、コミュニケーション弱者として虐げられてきたメガネ人間の姿をそのまま再現しているようにも見えるだろう。しかしながら、横山やすしは視力が悪くはないのである。メガネがどこにあるかは分かっているにも関わらず、あたかもひどい近視のように手探りをしてみせたわけだ。
もちろん、メガネは芸用の伊達メガネである。しかも、より飛びやすいようにと、ゆるめに設計されてもいた。しばらくすると、西川きよしが「見えてるやろ」とツッコミを入れる。その瞬間、横山やすしは立ちあがり、何事もなかったかのように、さっと取りに行く。そして、大爆笑が巻きおこるというわけだ。
横山やすしと西川きよしは、「漫才」というコミュニケーションの力関係における“強者”とも言うべき観客席の人間たちに対してメガネを飛ばすことにより、コミュニケーション弱者のほうから仕掛けるかたちでダイレクトコミュニケーションを大爆発させて見せたのである。
この大阪で起きたエポックメイキングともいえる出来事に敬意を表し、「ガントバス」初号機の開発においても「メガネ」を飛ばす機能を徹底的に追求することにした。そして、大阪の地から、「ガントバス」初号機の完成を世界へと発表するのだ。
ガンを飛ばすように、メガネを飛ばす。コミュニケーション弱者の象徴として揶揄されてきたメガネ自体が「ガン」となり、強者へ襲いかかる。そんな新たなダイレクトコミュニケーションによる反逆の時代が今、ここ大阪で幕を開ける。